今回の大河ドラマ「光る君へ」には琵琶が登場して参りました。
そのせいか琵琶に関心を持つ方も多かったのではないかと思います。
私も「楽琵琶の響きは素敵だなぁ」と思いながら,、琵琶の出てくるシーンを見ておりました。
いつか機会があればぜひ楽琵琶を奏でてみたいですね。
まひろ(紫式部)の最後のセリフが非常に印象的でした。
「嵐が来るわ‥。」
貴族の世から武士の世へと移り変わりを予感させる言葉。
戦乱の世が始まるわけです。
まさに「源氏物語」から「平家物語」へ。
実は私は、琵琶の師匠である坂田美子先生が主催する「平家物語を楽しく語る会」に2020年より参加させて頂いております。
気が付けばもう4年!
毎年12月に発表会が行われるのですが、発表会では私はいつも琵琶ではなくお箏の音色と共に朗読をしております。
スカイプにてのオンライン発表です。
今回は「平重衡と千手の前」のくだりを朗読いたしました。
平重衡は清盛の息子。
一ノ谷の戦いで負け、生け捕りにされた平重衡は鎌倉に連行され、源頼朝の前に引き出されます。
その後、頼朝の家来のもとに重衡は預けられるのですが、
重衡のお世話をしたのが、千手の前という女性でした。
年齢二十歳ほどの色白く清らかで、非常に美しく、なおかつ優雅な女性。
千手の前は宴席にて重衡に酌をします。
そして重衡の気品ある様子、かつ優しく思いやりのある人柄に惹かれ、このような歌を詠みます。
「一樹の陰に宿りあひ 同じ流れを結ぶも 皆これ先世の契り」
(重衡さまと私がこうしてお会い出来たのも、前世で深い縁が結ばれていたからでしょうか)
重衡はこう返します。
「灯闇うしては 数行虞氏が涙」
(項羽が虞氏との別れを惜しむように、私も君と離れるのがつらくなった)
重衡の奏でる琵琶と、千手の前の箏の音色が重なります。
お互いの想いが重なり合う、情感溢れるしっとりとした場面。
短い春の夜のひとときです。
その翌年、重衡は首を討たれ、
千手の前はその知らせを聞き、重衡の菩提を弔うために出家します。
たった一夜、
歌を詠み合い、想いを交わした。
ただそれだけなのに。
ですが、千手の前と重衡はそのわずかなひと時、お互いを慕い合い慰め合い、心で契りを結んだのかも知れません。
その情愛を貫き、重衡の死後全てを捨てて仏門に入った千手の前。
「信濃国善光寺で一心に修行し、自分も極楽往生を遂げた」と平家物語には書かれています。
平家物語の魅力は、平家と源氏の戦いを描いただけではありません。
人間の心の機微、感情、出会い、運命‥
激しくも儚く、そして短い世を生き抜いた人々の物語。
細やかで美しい自然描写も相まって、情景豊かに当時の様子が胸に響きます。
「平家物語」とは「滅びの物語」。
ですが、滅びにもそれぞれの心があります。
そして、その想いこそが人々の胸を打つのではないか…と思いました。